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エリック・サティのvexation

ピアノ曲、"vexation"(ヴェクサシオン)。
曲名は、フランス語でいらだちという意味だそうである。

まあ、有名なので、知っている人にはなにを今更ということになろうが、 この曲、譜面どおりに演奏すると約19時間弱かかってしまう。 ギネスブックにも世界最長の曲として認定されているとか。 といっても、辞書みたいにぶ厚い譜面ではない。 曲そのものは26拍しかなく、そのフレーズを840回、 レントで反復するように指示がしてある。まさに「いらだち」なのです。

実は、この曲のレコードを持っている(笑)。

オランダのラインべルト・デ・レーウという音楽家が演奏したもので、 さすがに譜面の指定通りの回数は収録されていないが、 A面とB面あわせて35回、 約50分の「いらだち」を楽しむことができる。 これを両面24回かけつづけると世界最長の音楽を聴くことが出来るはずだが、もちろん試したことはない。

サティという作曲家は、こういうことばっかりやってきた人である。 音楽の歴史や権威をユーモアのセンスでひっくり返そうとする。その発想が支離滅裂ではなく、 その後の音楽の方法論を拡張してきたところがすごい。 しかしながら残念なことに、その後の時代のサティ的音楽は、 癒しの要素とかの「いいところ盗り」で、そのラジカルな本質的部分を避けてしまっているようだ。 考えてみてください。"vexation"を、サティは最初から最後まで、 まともに聴いてもらおうとなんて端から考えていない。それはすごいことです。 80年代にはいってから国内外ですぐれたアンビエント(環境音楽)のレコードが制作されたけれど、 あまりに音が美しくてついつい聴き込んでしまうものが多い。 それはとどのつまり、プロ(商業主義)の音楽だからといえる。 アーチストの存在証明がかかっているのだ。(ケージも、イーノもその例にもれない)  サティはそういうアーチストエゴをも超越している、本物の先駆者である。まさにデュシャンがそうであったように。

それにしても、流れてくる音楽を「聴かない」ことのなんと難しいことか!
こんなもの無視していいんだよ、という芸術なんてほとんどない。 音楽の世界でこんな発想をしたのはサティとモーツアルトくらいではないか。 彼らの書いた諧謔性豊かな作品は、われわれではなく、もっと先の時代の音楽性を見据えているのかもしれない。

ちなみに、先にご紹介したレコードであるが、 演奏者のデ・レーウはサティ顔負けのユーモアを演奏に仕掛けている。おわかりでしょうか?  演奏回数はA面とB面あわせて35回。...ということは奇数ですね。つまり表と裏、 どっちかで1回多く弾いているはずだけど、まったく同じテンポで弾いているのでわからない。 演奏時間もA面で26分31秒、B面は26分30秒、と誤差は1秒。 ということになると、これはあきらかに意図的ですね。さて、どっちの面で1回多く弾いているのか?  まさに「いらだち」との戦いになってしまいますが。(まあ、CD化されて意味がなくなってしまったわけだけど)

サティも面白いが、デ・レーウという演奏家もたいしたひとです。
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by thatness | 2004-10-21 15:19 | 音楽_classic
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