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フェルメール・クァルテットの素晴らしい世界

朝日新聞の朝刊で、フェルメール・クァルテットが来日公演中であることを知った。 東京の紀尾井ホールのオープン10周年記念イベントにに、 アルバン・ベルク四重奏団、 ジュリアード四重奏団とともに招かれ、各地で公演しているのである。 あわててスケジュールをネットで調べたのだけど、 近場での公演はないようである。残念、残念、残念。

フェルメール・クァルテットのことを知ったのは、いまから6年前ほど前だろうか。 ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集が一枚千円のバジェット盤で再発されてから。 たまたま安かったのと、『レコード芸術』誌の評が(あつかいは小さかったが)ほぼ絶賛の評価で興味がわき、試しに一枚、 15番のディスクを買いすっかり魅了されてしまった。 演奏は昨今の四重奏団らしく高い集中力を保ち、音の線もよく分離する。 しかし、 音色はとてもまろやかでメタリックなところが一切ない。そのぶんスピード感や大胆さには欠けるかもしれないが、 優しさと繊細さがあふれ、とてもエモーショナル。テンポも自然で、 ベートーヴェンが天国から指示を出しているのではないかと思うほど。 それまで所有していたアルバン・ベルク四重奏団の旧盤をすべて処分して、フェルメール・クァルテットで全曲を揃えた。

ベートーヴェンが最晩年に書いた弦楽四重奏曲は、クラシック音楽の最高到達点といわれている。 難しいことはわからないが、 たしかに15番の第3楽章「病癒えたものの神に捧げる感謝の歌」をはじめ、 各曲に残されている精神性の深い緩徐楽章は素晴らしい。 気分が衰弱した時などにじっくり聞くと、 冷たい冬の大気が陽の光で暖められるように、魂を癒してくれる。 ぼくにとっては、 人生のミラクル・ドラッグといってもいいくらいの存在で、 何があってもフェルメール・クァルテットのディスクを手放すことはないだろう。

朝日新聞の(4月23日の紀尾井ホール)記事から。

「アルバン・ベルク四重奏団の場合、速く、大きい弓使いで豊かな倍音を響かせる傾向があるが、 このフェルメール・クァルテットは、いずれもあまり弓を走らせすぎず、しつかり鳴っている実音が響き合う。 そして、第1バイオリンがソリスティクにならず、完全にアンサンブルに溶け込んでいるのも特徴。 各声部の受け渡しの部分は、非常に丁寧で、結果として見事に求心力のあるアンサンブルになる」(伊東信宏氏・朝日新聞西部版4月29日)

なるほど。そうだったのか、と思う。
どうりで、音に透明感があって、楽器がきちんと鳴っているような気がするわけだ。 アルバン・ベルク四重奏団とは、奏法だけでなくおそらくピッチもかなり違うのだろう。 曲の解釈云々以前に、アンサンブルのコンセプトがかなり異なっていたのだ。

ぼくはアルバン・ベルク四重奏団の実演を地元のホール (紀尾井ホールをやや小ぶりにした感じのシューボックス型のいいホールです) で聞いたことがある。 ベートーヴェンの14番は素晴らしかった。リーダーのギュンター・ピヒラー氏はじめ、 各奏者は全身をはげしく動かしつつ艶やかな音を太陽のように放射する。
四人の奏者が演奏しているというより、ホール全体がひとつの楽器となり、 音の胎内で遊んでいるような感覚があったと思う。 同じホール。別の機会に、フェルメール・クァルテットの弟子筋にあたる上海クァルテットのコンサートを聴いたときは、 まったく違う音楽を聞かせてくれた。それはまさに前述の朝日新聞の記事にあるような、 第1ヴァイオリンがソリスティックにならない、 繊細で求心力のあるアンサンブルだったのである。4人の演奏家がたがいの音をしっかりと聞きあい、 息をあわせて弓を弾いているのが手に取るようにわかる。アンサンブルの原点をみるようなコンサートであったと記憶している。

アルバン・ベルク四重奏団の演奏スタイルは、昨今の弦楽四重奏演奏のひとつの世界標準になっている。 緻密で切れ味のよい刃物をふるったような、シャープな音。第1ヴァイオリンが明確なリーダシップを保持し、 スピード感と雄大なスケールを併せ持った演奏を展開する。つまらなくはないが、 ぼくはやはりフェルメール・クァルテット(あるいは上海クァルテットのような)のような、 全体のアンサンブル重視、エモーショナルで、まろやかな演奏のほうが好きである。すくなくとも、現役の弦楽四重奏団ではベスト。

紀尾井ホールの今回の10周年記念イベントには「世界のトップスリーを聴く」とのコピーがついている。 まあ...まっとうな選択ではあるけど、フェルメール・クァルテットは他のふたつの団体と異なり、 一般的な知名度はまだまだ低い。 メジャーレーベルとの契約がないので、録音が少なくマスコミの話題にあがりにくいのだ。 現在、かろうじて入手可能なディスクは前述したベートーヴェンの全集のバジェット盤 (AmazonとTOWERのサイトに在庫あり)の他、 数点に過ぎない。 ナクソスからバルトークの全集がリリースされる予定があるときくが、 信じられないことにハイドンの「エルディーディ四重奏曲集」、 モーツアルトの「ハイドンセット」の録音がまだないのである。 数多あるクラシックレーベルはいったい何をしているんだろうか...。未来の音楽愛好家のためにも録音をたくさん残して欲しい...。痛切に思う。
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by thatness | 2005-05-04 15:32 | 音楽_classic
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